部活動顧問って、拒否できないの? 現役教員が【部活動顧問の断り方】を読んでみた。

本書は一言で言うと
「教員が部活動顧問を断るために必要な法的根拠と、校長先生との具体的な交渉方法についてまとめた本」
です。
毎年繰り返される部活動の担当決め。
ただでさえ年々業務が増えていく中、当然のように顧問が割り当てられる現状に、違和感を覚えたことはありませんか?
部活動は勤務時間外なのに、断れない空気がある…。

どうしても「自分が断ったら、生徒や他の先生方に迷惑がかかる…。」と思ってしまいますよね。
しかしながら、多忙のあまり体調やメンタルを崩してしまう先生方が増加の一途をたどる中で
望まない先生が無理をして顧問にならざるを得ない現状は、個人の意見としてやはり間違っていると思うのです。
この記事ではそうした現状に悩む先生方に向けて、本書を参考にしながら
部活動顧問を断るために必要な法的根拠や、それをもとにした具体的な断り方、交渉のコツをわかりやすくまとめました。
PDF資料や動画もご用意していますので、「どう動けばいいのか」がしっかりイメージできるはずです。
先生方がこれ以上疲弊し、自分や家族との大切な時間を削ることの無いように
この記事が先生方にとって、教員としての働き方を自分で選ぶための一助になれば幸いです。
今回ご紹介する「部活動顧問の断り方」についてまとめたPDF資料を、ページ下部にご用意しました。
ぜひダウンロードしてご活用ください。
本記事の内容を動画にしたものです。通勤中や作業中のながら聴きにおすすめです。
本記事は『部活動顧問の断り方』西川純(株式会社東洋館出版社)の内容を参考に、私見を交えながら作成しております。

部活動の地域移行について

部活動の地域移行はとても大きな話題となりました。
スポーツ庁と文化庁から出ている「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン(令和4年12月)」によると
「まずは休日における地域の環境の整備を着実に推進し、令和5年度から令和7年度までの3年間を改革推進期間として地域連携・地域移行に取り組みつつ、地域の実情に応じて可能な限り早期の実現を目指す」
とされています。
しかし、現場で働く私たちからすると
できるイメージが湧かない…。
というのが本音ではないでしょうか。

可能な限り…。
そもそも、教員は部活動顧問を断れるのか?

公立学校に勤める私たちは、部活動顧問を断ることができるのでしょうか?
学習指導要領総則(平成29年告示)では、部活動は教育課程外の活動であるとしながらも「学校教育の一環」であることが明記されています。
また教育委員会の規則において、校長が教員に部活動指導業務を校務として分掌させることができると規定している場合もあります。
よって結論としては
「校長先生は職員に職務命令として部活動顧問をさせることはできないので、お断りします。」という主張が必ずしも通るとは限らない。
と言えます。

職務として命令されたら断れないよ!

大丈夫。別の視点からアプローチしていくんだよ。
ではどうやって部活動顧問を断ればよいのでしょうか?
中央教育審議会の教職員給与の在り方に関するワーキンググループ(第8回)配付資料5「教員の職務について」(平成18年11月10日)では
「校務」とは、学校の仕事全体を指すものであり、学校の仕事全体とは、学校がその目的である教育事業を遂行するため必要とされるすべての仕事であって、その具体的な範囲は
- 教育課程に基づく学習指導などの教育活動に関する面
- 学校の施設設備、教材教具に関する面
- 文書作成処理や人事管理事務や会計事務などの学校の内部事務に関する面
- 教育委員会などの行政機関やPTA、社会教育団体など各種団体との連絡調整などの渉外に関する面
とされていることや、
新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(中間まとめ)(平成29年12月22 日)では、
部活動が「学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」として明記されていることから
本来教員が果たすべき任務・担当する役割である「教育課程に基づく学習指導などの教育活動」は、
「学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」と比較した場合、その優位性が認められると言えます。

「教師がやらなければならないこと」と「教師でなくてもできること」は明確に区別されているんだね。

そう。そして部活動は後者に属しているよ。
そして何より、このあとご紹介する「校長は法令で定められたもの以外について、職員に時間外勤務を命ずることができない」という規定。
これらが部活動顧問を断るためのポイントになりそうです。
部活動顧問を断るということについて本書では
この種の交渉事は100%あなたの勝ちなのですから、気楽にやりましょう。
という力強い言葉でまとめられています。
部活動顧問を断るための「最大の武器」とその使い方

校長先生との交渉で最も重要なポイントとなるのは
「校長は法令で定められたもの以外について、職員に時間外勤務を命ずることができない」
という点です。これは「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」が根拠となっています。(いわゆる給特法)
また、この法律において定められている「校長先生が職員に対して時間外勤務を命ずることができるもの」は
- 校外実習その他生徒の実習に関する業務
- 修学旅行その他学校の行事に関する業務
- 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
- 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務
以上の4つのみとされています。(いわゆる超勤4項目)
しかも「臨時又は緊急のやむを得ない必要があるとき」という条件付きです。

残業代が支払われないから、原則として教員に残業をさせてはいけないことになっているんだね。
※ちなみに、超勤4項目以外での時間外勤務(部活動指導を含む)は、基本的に教員の自発的行為とみなされます。
このことから、本書では部活動顧問を断るロジックとして
→ 断る
教員が本来行うべき業務をこなし、休憩時間を差し引くと、部活動指導にあてられる時間は無いに等しいため、時間外勤務が必須になる → 断る
勤務時間内のみ部活動指導をするとなると、活動時間が10分しかないなどの問題が生じるため、事実上不可能 → 断る
といった内容の主張が紹介されています。
つまりこれは、単に「校長は教員に部活動顧問を命じることができない」として訴えるのではなく
- 割り当てられた勤務時間から、教員が本来果たすべき任務や担当する役割に要する時間を差し引くと、部活動指導にかけられる時間が無い。
- そして校長は教員に時間外勤務を命じることができない。ゆえに
- 「校長は教員に部活動顧問を“事実上”命じることができない」
- 命令でなくお願いをされているわけだから、それは教員の意思で断ることができる。
という論理で部活動顧問を拒否するということを意味しています。
本書ではさらに、こうした主張に対して予想される校長先生の反論とその対応についても法的根拠を示しながら具体的に説明されています。
私ならこう断る

本書を読んだ上で、「私ならどう断るだろう?」と考えてみました。
ステップ1:個人的な事情を根拠とした配慮のお願い
★主張1:部活動顧問(副顧問を含む)はお断りしたい
- 理由:自身の精神的、身体的健康保持のため
- 根拠①:これまでの勤務経験から、月の残業時間が45時間を下回ったことがほぼ無く、有給休暇や毎日の休憩時間も消化しきれたことがなかった
- 根拠②:その結果体調を崩したり、精神的にも不安定になったりすることがあり、教員が本来行うべき業務に支障が出かねない状態になった
(昨年度のストレスチェックの結果やカウンセリングを受けたことなどの事実を提示する)
ステップ2:法律を根拠とした配慮のお願い
※校長先生から代案を提示されたり、押し切られそうになったりした場合
★主張2:勤務時間外は仕事ができない
(理由に関わらずこれは必ず肯定されなければならない)
★主張3:教員が本来行うべき業務をこなし、休憩時間を差し引くと、部活動指導にあてられる時間は無いに等しい
★主張4:勤務時間中は、教員が本来行うべき業務に専念するため、「必ずしも教師が担う必要のない業務(教育課程外の活動)」である部活動顧問(副顧問を含む)はお引き受けできない
ステップ3:予想される反応とその対応
※校長先生から「他の教員の負担が大きくなる」などと言われた場合
★主張5:部活動顧問を望まない教員が、無理をしてそれを引き受けなければならないこと自体が問題であると考えられるため、まずは部活動数を適正な数にまで減らすべき
※校長先生から「生徒のため」などと言われた場合
★主張6:教員が心にゆとりを持って生徒と関わり、健康的に自己実現しようとする姿をモデルとして示すことは、部活動とは違った教育的意義がある
ステップ4:最終手段
※それでも受け入れてもらえなかった場合
★主張7:「私がこれ以上お伝えできることはございません。もし、私が公務員としての職務に違反する判断をしているなら、正式に処分してください。」と伝える
以上が私の考える部活動顧問の断り方です。
ただし今後生じる軋轢を最小限にとどめるためにも、理論武装して校長先生を攻撃したり、脅したりするのではなく
「どうか、ご理解いただきたい」と本気でお願いするスタンスを最後まで崩さずにいたいですね。
※同問題を弁護士の先生に相談した件については別記事にてまとめましたので、下のリンクよりあわせてご覧ください。

まとめ

ここまで、先生方にお伝えしたい部活動顧問を断る具体的な方法について『部活動顧問の断り方(西川純)』の内容を参考にしながら
私個人の経験やそれに基づく私見を交えつつ紹介させていただきました。
本書では他にも部活動顧問を巡る校長先生との実際のやりとりや、周囲の先生方の反応、西川先生が考える今後の部活動のあるべき姿など、大変有益な情報やアイディアが満載です。
部活動顧問制度に違和感を感じておられる先生方、心にゆとりを持ち、仕事もプライベートも充実させたいとお考えの先生方には、ぜひおすすめしたい本です。
最後に、本書を読んで個人的に心動かされた言葉を引用させていただき、まとめといたします。
もう一度書きます。
働き方改革ができるのは、文部科学省、都道府県教育委員会だと思っているかもしれませんが、それは誤りです。
働き方改革を実行できるのは、「あなた」なのです。

YouTubeで教員目線の書籍解説やってます!!(もんTチャンネル)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
日々走り続ける全国の先生方へ、敬意を込めて。
※今回の付録シートは下の【PDF資料】ボタンからダウンロードしてください。
↑クリック
本記事の内容を動画にしたものです。通勤中や作業中のながら聴きにおすすめです。
本記事は『部活動顧問の断り方』西川純(株式会社東洋館出版社)の内容を参考に、私見を交えながら作成しております。

素晴らしい見解です。感服しました。
私も断固拒否し続けています。
このブログを立ち上げてから
はじめてコメントをいただきました。
ありがとうございます。
少しでも先生方のお力になれれば
うれしいです。
初任でも年度途中で拒否できますか?
※【部活動顧問は断ることができるのか、実際に弁護士の先生に聞いてみた。】ページ内における返信コメントの転用です。
コメントありがとうございます。嬉しいです。
結論は「できる」です。
ただし前提として
①現在の勤務状況において、部活動の指導にあたる時間を除いても勤務時間内に与えられた職務を果たすことが難しく、休憩時間も確保することが困難な状況であること
②そのことを校長先生に相談しても、業務量を減らす等の具体的な対応がなされておらず、改善の見込みがないこと
以上が明らかであることが必要です。
また、一度顧問を引き受けていることから、もし年度途中で顧問を断った場合、該当する部活動に所属する生徒およびその保護者からの印象は悪くなると思います。
場合によっては職員からの風当たりが強くなる可能性も否定できません。抜けたainさんの代わりを他の職員が担うようになることがあり得ますし、「私だって我慢しているのにあなただけずるい」と思う人もいるかもしれないからです。
ただ、それらを考慮してもまず第一に考えなければならないのはainさんの心身の健康です。
仮に長時間労働で心身の健康を害し、訴訟してその訴えが認められたとしても、多くの場合それはもうすでに教員を続けられないくらいボロボロになってしまった後の話です。
それではあまりにも悲しいです。
先ほど職員からの風当たりが強くなる可能性について述べましたが、一方でainさんの勇気ある行動に理解を示してくれる先生もいらっしゃるかもしれません。
集団の中から自分ひとり一歩外に踏み出すことは、いつでも誰でも勇気がいることです。
「自身が最後まで断りきる『折れない心』を持つこと」とはまさにそれを意味しています。
校長先生も、職員も、生徒・保護者も、ainさんも
誰が悪いというものではないんですよね。
制度設計自体に問題があるんです。
私は、ainさんが「なぜ教員を目指したのか」を知りませんが、どうかその目的を大切に守り、教員になって良かったと思える人生を歩んでいただけることを切に願っています。