根が深い部活動顧問の問題。
私個人としては、望まない先生が半強制的に部活動の顧問となり、平日だけではなく休日も時間外労働しなくてはならない現状に疑問を感じています。
今回はそんな疑問について、法的な視点からご意見をいただこうと、人生で初めて法律事務所へ行き、 実際に弁護士の先生からお話を伺ってきました ので、そのことについてまとめてみようと思います。
意外と行動力あるのね。
フットワークは軽い方です。(意外と?)
※ご紹介しますのは個人の実践に基づく見解ですので、予めご了承ください。少しでも先生方のご参考になれば幸いです。
結論:部活動顧問は断れる
今回は、労働問題を主に取り扱っておられる弁護士の先生にお話を伺いました。
これまで教員が部活動顧問について法律相談をしていた例はほぼ無いとのことでしたが、実際に今の私個人の勤務状況や、望まない教員が半強制的に部活動顧問をさせられていることへの違和感などをお伝えしたところ、結論として
「部活動顧問は断れる」
とのことでした。
私が弁護士の先生に伝えたことは以下の通りです。
- 月の残業時間が100時間を超えることが常態化しており、休憩もとることができない
- 体調を崩したりメンタルが落ち、教員としての本業に影響が出ることがあった
- 与えられた仕事が教員としてすべきことだと思って取り組んできたが、教員の労働問題を調べると、そのほとんどが「本人が自主的にやったこと」として処理されていた
- 部活動顧問は時間外の勤務(残業代無し)が前提となっている
- 現実問題として、教員が部活動顧問をしないとそれまでの学校運営を大きく変えることとなり、生徒や保護者の不満も高まるため、部活動顧問を断ることは校長先生も簡単には認めることができない
そんな中でも日々部活動の指導にあたられている先生方が全国にたくさんいらっしゃるんだよね。
部活動顧問を断ることができる根拠
弁護士の先生によると、教員が部活動顧問を断ることができる根拠として
- 部活動は教育課程外の活動であり、その指導を断ったとしても教員としての職責を果たしていないとは言い難い
- 長時間労働が原因で体調に不調をきたした場合、校長先生の安全配慮義務違反が問われる可能性がある
の2点を指摘されました。
安全配慮義務については
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)第五条 労働者の安全への配慮
と定められており、ここでいう“使用者”とは、教育委員会や校長先生のことで、
“必要な配慮”とは、「早く帰ってください」などの声掛けや面談だけではなく、労働者の業務負担を軽減するなどの、具体的な措置を講じること を意味しています。
これについては、大阪府立高校教諭の西本武史先生が起こした裁判が有名で、結果としてその訴えが全面的に認められ、大阪府は賠償命令を受けることになりました。
交渉の際にしておいた方がよいこと
実際に校長先生と部活動顧問についての交渉をする際に、準備しておいた方がよいことを聞いてみたところ、会話の録音 を勧められました。
弁護士の先生によると会話を録音することに許可は必要ないのだそうです。
また、それを強制的にやめさせることはできないとのことでした。
そして何より、交渉の流れを記録しておけば
- 自分が部活動顧問を拒否していたこと
- それにも関わらず部活動顧問を押し付けられたこと
以上2点についての証拠となり、自分の身を守ることにもつながるとアドバイスをしていただきました。
今の時代、保護者対応でもこうした措置を検討しなければならない場合がありますよね。
ただし、交渉するにあたって何よりも大切なことは
「自身が最後まで断りきる『折れない心』を持つこと」
なのだと教えていただきました。
自分の主張が簡単に通ることは考えにくいので、あらゆる可能性を想定し、しっかり準備を整える中で覚悟を決める必要があります。
弁護士の先生に相談して良かったこと
今回、私は人生で初めて弁護士事務所に行ってみたのですが、こうして専門家の先生に相談し、直接アドバイスをいただけたことで
「部活動顧問って、やっぱり断っていいんだ。」
と、あらためて納得することができましたし、同時にすこし心が軽くなったような気がしました。
冒頭でも述べましたように、私個人の考えとして、望まない先生が半強制的に部活動の顧問となり、平日だけではなく休日も時間外労働しなくてはならない現状に疑問を感じていたのは確かだったのですが、
その思いとは裏腹に
「教員が部活動の顧問をするのが一般的であると知りながら、自分で選んで教員になったのに、こんなことを考えている自分はダメな教員なのではないか?」
とも考えていました。
しかし、使命感を持って教員としての責務を果たすのはもちろん大切なことではありますが、それは 自分の人生を健康的で豊かに生きていくことを前提 とした話です。
仕事をするために、1度しかない自分の人生を犠牲にするという考え方はとても悲しいですし、教員が心のゆとりを失ってしまえば、それは結果として子どもたちに良い影響はあたえません。
誰にでも幸せになる権利がありますし、それはもちろん我々教員にも等しく与えられているはずです。
弁護士の先生とのお話しを通して、そんな当たり前のことに改めて気付くことができました。
まとめ
ここまで、「教員が部活動顧問を断ることができるのか?」という疑問について実際に弁護士の先生に伺ったことをまとめさせていただきました。
もちろん部活動の教育的意義は大変重要で、熱意を持ってご指導されているたくさんの先生方がいらっしゃることは事実であり、それ自体を否定するつもりは全くございません。
ただ一方で教員の仕事が多忙化する中、精神的に追い詰められ、休職を余儀なくされる先生方がいらっしゃることも事実であり、望まない先生が部活動顧問を割り当てられ、自分や大切な家族のために使う時間を削らなければならないことは、看過できなとこだと考えています。
ちなみに私の月の残業時間が100時間を超えることをお伝えしたとき、弁護士の先生は大変驚かれていました。(個人的には弁護士の先生の方が忙しいイメージがありましたが・・・)
部活動顧問の具体的な断り方については、別記事にてまとめましたので、下のリンクより合わせてご覧いただけますと幸いです。
「子どもたちのため」と、労力を惜しまず一心に仕事をされている全国の先生方が、健康的で充実した教員生活を全うされますことを心から祈っております。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
日々走り続ける全国の先生方へ、敬意を込めて。
初任でも年度途中で断れますか?
コメントありがとうございます。嬉しいです。
結論は「できる」です。
ただし前提として
①現在の勤務状況において、部活動の指導にあたる時間を除いても勤務時間内に与えられた職務を果たすことが難しく、休憩時間も確保することが困難な状況であること
②そのことを校長先生に相談しても、業務量を減らす等の具体的な対応がなされておらず、改善の見込みがないこと
以上が明らかであることが必要です。
また、一度顧問を引き受けていることから、もし年度途中で顧問を断った場合、該当する部活動に所属する生徒およびその保護者からの印象は悪くなると思います。
場合によっては職員からの風当たりが強くなる可能性も否定できません。抜けたainさんの代わりを他の職員が担うようになることがあり得ますし、「私だって我慢しているのにあなただけずるい」と思う人もいるかもしれないからです。
ただ、それらを考慮してもまず第一に考えなければならないのはainさんの心身の健康です。
仮に長時間労働で心身の健康を害し、訴訟してその訴えが認められたとしても、多くの場合それはもうすでに教員を続けられないくらいボロボロになってしまった後の話です。
それではあまりにも悲しいです。
先ほど職員からの風当たりが強くなる可能性について述べましたが、一方でainさんの勇気ある行動に理解を示してくれる先生もいらっしゃるかもしれません。
集団の中から自分ひとり一歩外に踏み出すことは、いつでも誰でも勇気がいることです。
「自身が最後まで断りきる『折れない心』を持つこと」とはまさにそれを意味しています。
校長先生も、職員も、生徒・保護者も、ainさんも
誰が悪いというものではないんですよね。
制度設計自体に問題があるんです。
私は、ainさんが「なぜ教員を目指したのか」を知りませんが、どうかその目的を大切に守り、教員になって良かったと思える人生を歩んでいただけることを切に願っています。