先生辞めるのは、まだ早い? 現役教員が【学校がしんどい先生たちへ】を読んでみた。
- 「子どもの前では平気な顔をしているけど、正直しんどい」
- 「自分って、ほんとは教員向いてないんじゃないか」
- 「これから先も教員を続けていく自信がない…」
そう思いながらも、
「でも、努力してやっとつかんだ夢。できることなら教員をあきらめたくない…。」と、日々葛藤されている先生もいらっしゃるはず。
今回ご紹介するのは、そんな「しんどさ」の渦中にいる先生方へ向けて書かれた『学校がしんどい先生たちへ それでも教員をあきらめたくない私の心を守る働き方』という一冊です。
この本は一言でいうと、
仕事がしんどいと感じている先生に、現場を知る著者が同じ目線でそのしんどさに共感しながら、現状をすこしでも好転させるためのヒントを教えてくれる本
です。
【教員を辞めるべき・続けるべき】と結論を押し付けるのではなく、悩む読者の横に座って「こんな考え方や選択肢もありますよ」と、優しくアドバイスしてくれるような温かさを感じます。
著者のゆきこ先生も、小学校教員として働く中で疲弊し、ある日突然学校へ行けなくなった経験をお持ちです。
そうした「どん底」を経験した著者だからこそ書ける、具体的な実践が詰まった本書から
今回は「子どもたちとの無理のない関わり方」をテーマに、
- ひとりで40人の子どもたちを見るのが大変
- 子どもの暴言に傷つく
- 指導がうまく入らない
といった、多くの先生が一度はぶつかる3つ悩みについて、本書の考え方と、私自身の経験・考察を交えながら深掘りしていきます。

この記事にたどり着いた先生って、きっとギリギリの状態で、でも子どもたちのために必死に頑張ってる先生だよね。

そうした先生方の負担感を少しでも減らせたら嬉しいなぁ。
本記事は『学校がしんどい先生たちへ それでも教員をあきらめたくない私の心を守る働き方』ゆきこ先生(株式会社KADOKAWA)の内容を参考に、私見を交えながら作成しております。
クラスをまとめるのがしんどい

ひとりで数十人の個性ある子どもたちを見るって、本当に大変です。
子どもたちが安心して生活できる環境を整えるため、学級担任として
「トラブルが起きないように」「全員が同じ行動をできるように」「ルールを守らせるように」…
そう思えば思うほど、【全部自分が管理しなきゃ】という意識が強くなり、結果的に一番苦しくなるのは、担任である自分自身だったりします。
そうしたお悩みに対して、本書の中でゆきこ先生は、子どもたちの行動すべてをコントロールしようとしないという考え方を紹介しています。
そのためのポイントは、「これだけは絶対にダメ」という最小限の軸を決めること。
ゆきこ先生が大切にしていたのは、「自分と人を傷つけない」という一点だけでした。
それさえ守られていれば、細かなことはある程度目をつぶる、というスタンスです。
そうすることで、子どもたちが自分で考える余白が生まれ、同時に、先生自身の心にも余裕が生まれたのだそうです。

子どもたちにゆだねる部分を設けたんだね。
完璧を求めることを辞める
この話を読んで、私は初任の頃の自分を思い出しました。
当時の私はトラブルを未然に防ごうと、たくさんのルールを作って生徒たちに示していました。
ルールを細かく決めてそれを全員に守らせれば、きっとクラスは落ち着くはずだと考えていたのです。
けれど実際には、どんなに細かくルールを決めても必ず例外は起こります。
そのたびに「先生どうすればいいですか?」と聞かれ、判断し、指示を出し、注意をして…。
気づけば私は、子どもたち同士で話し合い考える機会を奪いながら、一日中“監視役”のような立場になっていました。
当時の生徒たちの立場に立てば、きっと息苦しい教室だっただろうと思います。
その後、私自身も先輩にアドバイスをもらいながら試行錯誤し、ゆきこ先生と同様に「これだけは絶対に徹底する!」と決めた、クラス運営の大原則を以下の3つにしぼって生徒に示すようになりました。
- いじめをしない、させない、見逃さない
- 自分の仕事を完璧にやり通す
- 掃除・整理整頓の徹底
この大原則は毎年、年度初めの学級活動で提示し、ひとつひとつに込めた担任としての想いと、1年間指導しきる覚悟を生徒たちに伝えています。
そして、それ以外の部分については、その時々で「全員が居心地のいいクラスにしていくためにはどうすればいいんだろう?」という視点で、生徒たちに考えさせたり、一緒に考えたりしています。
ルールに関するところを生徒に任せると、どうしても「絶対こうした方がいいのに…」「それだとうまくいかないぞ…」と思うことももちろんありますが
そこをぐっとこらえて、“まぁ、失敗したらまた考えればいいか”マインドで、「わかった!一回それでやってみよっか!」と任せることができるようになりました。

生徒としても、全部あれこれ一方的に決められるよりいいよね。
また、担任が「どうする?」「どうしたい?」としか言わないからか、生徒たちの中でも【自分たちでなんとかするしかない】という感覚が芽生えやすくなったのではないかと考えています。
これまで「先生どうすればいいですか?」と聞かれていたのが、「先生こうしていいですか?」と提案されることが少しずつ増え、それが本当に嬉しかったです。
この成長にどれほどの価値があるのか
担任としてこれほど嬉しいことはない!!
と、本気で生徒たちにその感動を伝えていました。
そして同時に、私自身にも
「クラスを完璧にまとめようとしなくてもいい。」
「失敗は成長するための必要な過程だ。」
と、現状を肯定的に受け止められる心の余裕が生まれました。
※ここでお話した3つの大原則それぞれに込めた想いと、実際の運用の仕方については別記事にてまとめましたので、下のリンクよりあわせてご覧ください。

子どもの言動に傷ついてしんどい

どれだけ経験を重ねても、子どもからの心ない一言に傷つくことはあります。
特に、真面目に、誠実に子どもと向き合っている先生ほど、そうした言葉が心に深く刺さってしまうものです。
私自身も生徒の何気ない一言を引きずって、気持ちが沈んだまま数日過ごしたことが今まで何度もあります。
このような悩みに対して本書では、2つの視点から対処方法を提示しています。
①:返し技をストックする
まず一つ目は、「ベタなワードに対する返し技をあらかじめストックしておく」という方法。
ゆきこ先生の場合は、例えばユーモアな返し、寄り添うパターンの返し、受け流すパターンの返し…など、日々の実践のなかで使える返し技のストックを貯めながら、相手に応じてより効果的なものを使い分けるようにしているそうです。
そして本書では、ゆきこ先生が普段実際に使っている返し技も複数紹介されているのですが、特におもしろかったのが
廊下を走っている子どもに注意した際、「うるせえ、クソババア」と言われたのに対して
「クソきれいなお姉さんの間違いでは?」
と返したというエピソードです。
相手を否定したり、傷つけたりすることもなく、たった一言で大人の余裕をつきつけ、マウントをとる…。
言われた方は予想を裏切る相手の返答に一瞬戸惑いますし、繰り返すことで「この人に悪口は通じない…」と理解してくれそうです。

たしかにその場ですぐ切り返すためには、普段から技のレパートリーを増やしておく必要があるね。

もちろん、そのあとにタイミングをみて個別の指導をしていくよ。
言われた言葉を真正面から受けてしまうと、どうしても指導が感情的になりやすいですし、子どもの方も興奮している状態なので、結局指導が入らないという悪循環になりがち。
子どもとの関係性を維持しながら、互いに冷静な状態で効果的な指導をしていくためにも、こうした返し技を適宜使っていくことは有効だと感じました。
ちなみに本書では、ゆきこ先生が実際に使ってみて効果的だった返し技20選が、具体的なシチュエーションごとにわけて紹介されています。
子どもの悪口に対して悩んでいる先生方、必見です。
②:「先生としての私」を楯にする
二つ目は、「子どもたちが心ない言葉を向けている相手は、“本来の私”ではなく“先生としての私”であると認識する」という方法。
忙しい中で不意に心ない言葉をぶつけられると、いくら大人であっても「ゔっ…」とくらってしまうことはありますよね。
そうした時こそ、心の中で「本来の私」と「先生としての私」を切り離して考え、
『今文句を言われているのは、“先生としての私”の方だ』と認識する。
こうすることで、自分の前に一枚のバリアがあるイメージになり、子どもの言葉をダイレクトに受け取らずに済みます。

出勤中はきっとどの先生も、「先生という役割」を演じているはず。

子どもたちが知っている私は「先生としての私」だから、そもそも本来の私を攻撃することはできないってことね。
私にとってこの考え方は画期的で、実践するようになってから必要以上に自分を責めたり、引きずったりすることが減りました。
このように、普段から自分の心の整え方を理解しておくことは、ストレスの多い教員という仕事を続けていく上でとても重要だと感じています。
限界がきたときは
ここで少しだけ補足です。
勤務されている学校の雰囲気や校種によっても違ってくるとは思いますが、やはり現場はまだまだ「クラスの事は担任がなんとかするのが当たり前」という雰囲気があります。
それは先生方全員が自分の業務で手一杯になっているからに他なりませんが、しかしそれでも、困った時は一人で抱え込まず、勇気を持って先輩先生に相談して力を借りることが必要です。(簡単にできることではないのを承知で)
仮に担任が倒れてしまえば、職員室はさらに疲弊し、そのしわ寄せは最終的に子どもたちにいってしまいます。
そうなる前に適宜休みをとったり、先輩先生にサポートしてもらったりしながらチームで仕事をしていくことは、教員に限らず社会人として大事な考え方だと思っています。

もちろん、いざという時に助けてもらうためにも、普段から自分がチームのためにできることを見つけて率先してやりながら、他の先生方との関係性を築いていくことも大切です。
でももし今、この記事を読んでくださっている先生が「考え方を変える余裕すらない」「もう心が限界に近い」と感じているなら、迷わず専門家の力を借りることを勧めします。
私たち教員のように普段休みを取ることが難しい方でも、
オンラインで自宅にいながらプロのカウンセリングを受けられる『Kimochi(キモチ)』というメンタルケアサービスがあります。
精神疾患で休職される先生が後を絶たない昨今、手遅れになる前に普段からこまめにケアをしたり、いざという時に頼れる場所を確保しておくことは心のゆとりに直結します。
【無理に一人で抱え込まない】
それも、この教員という仕事を続けていくうえで必要な視点です。
もしご興味があれば、下のリンクから公式ホームページをご覧ください。
何度指導しても伝わらなくてしんどい

時間をかけて、言葉を選んで、思いを込めて指導したはずなのに
数日後にはまた同じ注意をしている…。
その時のストレスとか虚しさって、ありますよね。
時には「自分に指導力が無いせいだ」と、無力感を感じて自分を責めてしまうことも。
著者であるゆきこ先生もその難しさは感じていたのですが、あるとき先輩に言われた言葉で指導に対する心持ちに変化があったそうです。
それは、「子どもたちの人生にとって、私たちは点でしかない」という言葉でした。
これから続く長い人生の中で、私たちが関われるのはごくわずかな時間。
そこでその子をいろいろ変えようと思うから無理が生まれるし、私たち自身も苦しくなる。
私たちの仕事は、まず学校を子どもたちにとって楽しい場所にして、そこでたくさんの経験をさせてあげること。
その先に子ども自身が「私はこうなりたい」と思えるものを見つけられれば、それでいい。
という考え方。
このアドバイスを受けて、ゆきこ先生は「子どもにとって時間が経たないと理解できないことや、今は受け入れられない考え方だってある」ということが腹落ちし、
今すぐ結果を出すことにこだわるのではなくて、「いつか気づいてくれれば嬉しいな」という長いスパンで考えられるようになったそうです。

習慣や考え方を変えるって、大人でも大変ですよね。
人には、変わり時がある
私も同じ悩みを抱えていた時、初任研で講話をいただいた心理カウンセラーの先生の
「人には、変わり時がある」
という言葉に救われたことがありました。
指導を受けた生徒自身も、教員の言っていることが正しいことだと頭では理解しているけれど、気持ちの折り合いがつかなくて拒否反応を示しているだけの場合が少なくありません。
伝える側の私たちはその後の生徒の様子を見て、自分が意図した変容が視覚的に確認できないと「伝わらなかった」と判断してしまいがちですが、
実はこちらが思っている以上に、言葉は生徒の心に“種”として届いていて(生徒も無自覚な場合がほとんど)
様々な経験を積んだ先に、いつかその子の「変わり時」が来たとき、種から芽が出て、やっと行動に変容が見られるものだと教えていただきました。

私たちが関わっている間に生徒の変容が見られるって、むしろすごいことなんだね。

変化を過度に期待するのは、生徒も担任も苦しくなっちゃうよね。
だからこそカウンセラーの先生は、「指導したのに変化がない」といちいちイライラしたり落ち込んだりせずに、同じことを同じように何度も伝えて、種をまき続けていくことが重要なのだとおっしゃっていました。
個人的な経験から
余談ですが、成人式に呼ばれて久しぶりに生徒たちと会うと、「変わり時」について強く実感させられることが多々あります。
毎日のように遅刻して何度も指導していた子が、無遅刻無欠席で仕事に行っていることを自慢してきたり
私の指導に反発して卒業まで口をきいてくれなかった子が、自分から駆け寄ってきて近況を教えてくれたり
授業中いつも寝いていた子が、大学で熱中できるものを見つけて昼夜問わず研究に勤しんでいたり…と、
こちらがびっくりするような変化や成長を見られるのは結構あるあるで、それぞれに「変わり時」があったんだなぁとよく思います。

卒業後久しぶりに母校へ来てくれた子たちを見ても、その成長にびっくりすることってあるよね。
とはいえ、同じことを何度も指導するのって、どうしてもストレスが溜まりやすいのは事実なので、そうした際の心持ちについてまとめた別記事もご一読いただけると嬉しいです。(リンクは下)

まとめ

ここまで「子どもたちとの無理のない関わり方」をテーマに、『学校がしんどい先生たちへ それでも教員をあきらめたくない私の心を守る働き方(ゆきこ先生)』の内容を参考にしながら、私個人の経験やそれに基づく私見を交えつつお話しさせていただきました。
冒頭でも申し上げましたが、この本は「教員を辞めたほうがいい」「もっと頑張るべき」そんな極端な答えを提示する本ではありません。
今しんどい先生が、少し呼吸を整えるための視点をそっと差し出してくれる本です。
今回のポイントをまとめると、
まずあれもこれも制限して矯正しようとするのではなく、自分の中で「ここだけは絶対にゆずれない」大きな柱を立てて、それ以外は子どもたちと一緒に考えていくというスタンスをとる。
そして、日々の生活の中で「ここだけは絶対にゆずれない」ポイントに関わることがあれば
- 時間がたたないと理解できないこともあることを念頭に置く
子どもの急激な変化を期待しない - どんな言い分であろうと、一旦は子どもの気持ちに寄り添う
何を言われたかより、誰に言われたかの方が影響力が大きい
よって日頃の関係作りが重要なのはもちろん、指導の際も頭ごなしに叱ったり、人間性を否定したりするようなことは絶対に避ける - 毅然とした態度で淡々と、丁寧に、何度も繰り返し伝えていく
高圧的である必要は無い、しつこさで勝負する
この柱に対して自分のスタンスは曲げないという強い意志を示す
子どもに文句や暴言を言われても、それは私自身に対するものではなく「先生としての私」に向けられているものだと認識する - 一人で抱え込まず、積極的に先輩先生に相談して力を借りる
個人よりチームで教育する方が質の高い教育になるのは当然
だから担任一人で対処できないことが恥ずかしいことではないし、むしろ担任一人ですべてを対処しようとしてはいけない
そうした経験を経ていつか、自分も同じ悩みを抱える後輩のサポート役に
もし今、この記事を読んでいる先生が“教員”という仕事のやりがいや意味を見失いかけているなら、この本は「それでも続けたいと思っている自分の気持ち」を優しく肯定してくれる一冊になるはずです。
ゆきこ先生の考え方や実践をもっと深く学びたいと感じた方は、ぜひ一度、本書をお手に取ってみてください。

YouTubeで教員目線の書籍解説やってます!!(もんTチャンネル)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
日々走り続ける全国の先生方へ、敬意を込めて。
本記事は『学校がしんどい先生たちへ それでも教員をあきらめたくない私の心を守る働き方』ゆきこ先生(株式会社KADOKAWA)の内容を参考に、私見を交えながら作成しております。






