文科省は今年(令和5年)の4月、6年ぶりに教員勤務実態調査の結果(速報値)を公表しました。
そこでは未だ続く教員の長時間労働の実態が明らかとなり、現在働き方改革を含めた教員の処遇改善について中教審での議論が始まっています。
また自民党の萩生田政務調査会長がトップを務める特命委員会では、現在支給されている 「教職調整額」を2.5倍以上に引き上げる ことなどを盛り込んだ提言がまとめられました。
今回はこうした動きについて現役の教員が個人的に思うことをまとめてみたいと思います。
給料アップ!!やったぜー!!
いや、そういう単純な話では・・・
※ご紹介しますのは個人の実践に基づく見解ですので、予めご了承ください。少しでも先生方のご参考になれば幸いです。
教員の長時間労働の実態
このブログで教員の残業の多さについて書かせていただいたことがありますが、教員の長時間労働の問題はかなり深刻であると感じています。
先日発表された文科省による6年ぶりの教員の勤務実態調査結果によると、月の残業時間が国の示す45時間の上限を超えている教員は、小学校で64.5%、中学校では77.1% に上るそうです。
月の残業時間が45時間以内・・・。
私自身それは1年を通して夏休み期間中の8月で1回達成できるかどうかで、基本的には「過労死ライン」と言われる月80時間の残業を下回ることはほぼありませんでした。
(もちろん、私自身の処理能力の低さも大きな原因です)
朝は始業の30分前から出勤して欠席連絡の対応や授業等の準備、生徒の出迎えを行い、放課後は部活動の指導が始まったあたりで退勤時間を迎え、残業がスタートします。
(実際は部活動だけでなく、生徒指導案件や生徒会のミーティング、学校行事の打ち合わせや準備などを並行して行っている場合がほとんどです)
単純に月の勤務日数を20日間として、残業時間の合計が45時間を下回るためには
1日の残業時間を2時間程度に抑えないといけないね。
うぅむ・・・。
部活動が終わる時点ですでに残業時間は1時間を超えているので、その後の各種打ち合わせや明日の授業準備、保護者対応などにかかる時間を考えれば、1日の残業時間を2時間に抑えるのはかなり苦しいというのが個人的な感想です。
参考資料にもあるように、月80時間の 過労死ラインを超えて残業している教員 は、
小学校で14.2%、中学校で36.6%
だったそうです。
コロナ禍で縮小した様々な教育活動が通常に戻れば、この数値はさらに増えるのではないでしょうか。
給特法とその問題点
今回見直しを検討されている給特法。
これは「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」の略称で、教員の職務と勤務の特殊性に基づいて、公立の義務教育諸学校等で働く教員の給与や勤務条件について定めた法律です。
- 残業代は支払わない代わりに、月給の4%にあたる額を教職調整額として支給する
- 教員については原則として時間外勤務を命じることができない(※)
※例外として教員に時間外勤務を命じることができるもの(超勤4項目)
- 校外実習その他生徒の実習に関する業務
- 修学旅行その他学校の行事に関する業務
- 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
- 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務
この給特法。教員の労働問題とはかなり深い関係にあります。
1971年に成立した同法ですが、その中で定められている「月給4%分の上乗せ」はその 当時の教員の時間外勤務が月あたり8時間程度であった ことが根拠となっています。
その後教員の仕事は増え続け、「教員に時間外勤務を命じることができない」という原則が形骸化した結果、事実上の 「定額働かせ放題」が成立 してしまいました。
そして何より悲しいのが、教員が労働問題について訴えを起こすと、ここぞとばかりにこの給特法が登場し、
「残業は命じたわけではなく、教員が自主的に行ったものだ」
とされてしまうのです。
努力すればするほど損をしてしまうような構図になっていると言わざるを得ないですね・・・。
こうしたことが問題視され、以前から給特法の見直しや廃止を求める声がありました。
そして今回、6年ぶりに行われた教員勤務実態調査の結果を受け、給特法で定められている月給4%分の教職調整額を 10%以上へ引き上げる ことが提言されたのです。
それでも月45時間残業したとしたら、残業時間における時給は666円・・・。
個人的には、まず学校が抱える業務量の削減を優先し、給特法の原則に基づいて教員に残業させない環境を整備した方が良いのではないかと感じています。
今後の教員の働き方改革と処遇改善
現在、中教審では文科省からの諮問を受けて以下のことが検討されています。
①更なる学校における働き方改革の在り方について
働き方改革の観点については、
- 学校・教師が担う業務に係る3分類(※)について、更なる役割分担・適正化を推進する観点からの学校・教師が担う業務の在り方
- 上限指針(時間外在校等時間を1ヶ月45時間以内とすること)の実効性を高めることができる仕組みの在り方
- 各教育委員会における学校の働き方改革の取り組み状況などを「見える化」するための枠組みの在り方
- 健康および福祉の確保の観点からの 長時間の時間外勤務を抑制するための仕組み の在り方
- などが挙げられています。
②教師の処遇改善の在り方について
教師の処遇改善の観点については、
- 教師の職務と勤務態様の特殊性を踏まえて、勤務時間の内外を問わず教師の職務を包括的に評価し、一律給料月額の4%を支給することとしている教職調整額および超勤4項目の在り方
- 教育が教師の自発性、創造性に基づく勤務に期待する面が大きいなど 職務の特殊性 に対する考え方
- 現在の学校現場の状況や県費負担教職員制度などを踏まえた時間外勤務手当の支給に対する考え方
- 教師の意欲や能力の向上に資する給与制度や教師の職務等に応じた給与のメリハリの在り方
- などが挙げられています。
③学校の指導・運営体制の充実の在り方について
学校の指導と運営体制の観点については、
- 義務教育9年間を見通すことにも留意した、より柔軟な学級編制や教職員配置の在り方
- 子供や学校、地域の実態に応じた柔軟な教育活動の実施の在り方
- 35人学級などについての小学校における多面的な効果検証などを踏まえた、中学校を含めた、学校の望ましい教育環境や指導体制の構築 の在り方
- 教育の質の向上と教師の負担軽減のための小学校高学年における教科担任制の在り方
- 教員業務支援員などの支援スタッフの配置の在り方
- などが挙げられています。
文科省ではこれらの審議内容をもとに、来年春頃に方向性を示すとしています。
まとめ
ここまで、給特法の見直しに関するニュースをもとに教員の長時間労働の実態や、給特法とその問題点などについてまとめさせていただきました。
個人的に給与の引き上げはもちろんありがたいのですが、その額が勤務実態調査の結果に対してい正直見合っていないと感じました。
そして何より時間外勤務の量に応じた支給ではなく、一律に定額で引き上げる現在の給特法の仕組みを維持するのであれば、結局「定額働かせ放題」の現状を変えることは難しいのではないかと思いました。
現在中教審では給特法の見直しと共に、学校における働き方改革の在り方についても検討されていますが、個人的にはまず学校が抱える業務を削減し、教員が生徒たちと関わる時間的・精神的余裕を確保することを最優先に検討していただきたいと思っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
日々走り続ける全国の先生方へ、敬意を込めて。